随筆かも知れない

今年は私の家の近辺では「蛍」が少なかったようです。多い年には闇の中に蛍の川ができるのです。今年は上流で工事をしていたせいかそんな光景を見ることはできませんでした。一時期まったく見られなくなった蛍が近年またたくさん見られるようになって楽しみにしていたのですが、残念でした。

私が子供のころは、梅雨に入ってしまうと川沿いに舞い飛ぶ蛍の数はほんのわずかになり、梅雨入り前にさんざんとって飽きてしまっているのに、あのかすかな光が一つ二つ飛んでいると無性にそれがとりたくなって出かけようとしたものです。すると、梅雨の蛍は病蛍だといって親が止めるのですが、おそらくは水かさが増している川に子供を近づけないためにそんなことを言ったのでしょう。「病蛍」というのがどんなものなのかよく分からなかったのですが、何かしら恐ろしい気がして尋ねようともしませんでした。

自然の世界のサイクルがずれてしまっているようだというと大げさになるのでしょうが、少なくともここ数年まだ鶯が鳴いているうちに気の早い蝉の声が聞こえてきますし、蛍が舞うのは決まって梅雨に入ってからです。昔の言い方をそのまま使えばみんな病蛍ということになってしまいますが、梅雨といってもあまり雨が降りませんから、子供を川に近づけない工夫をする必要もないわけです。もっとも、川といっても本当の川ではなく水路になってしまっていますから、流れる水の量は雨の量にもよるものの、どちらかといえば水利組合の人の都合で決まっているようです。川には落ちた子供を流すような流れの強さもありませんし、水かさもありません。

例えば私は子供のころから後先を考えるということがあまりなかったために蛍に目をとられて足下をよく見ず、本当によく転んだのですが、土の上に転んでも大した怪我はしませんでした。ところがコンクリートの上に転ぶと、もちろん転び方にもよるのでしょうが、ひどい擦り傷になったりします。転んで川に落ちても水かさがあれば水が体を護ってくれますが、水かさのないコンクリート底の水路では、転んで落ちると一大事にもなりかねません。川が本当の川でなくなって水路になり、そこに潜む危険も形態が変わってしまっています。昔の親以上に、今の親は子供の身の安全を考えなければならないのかも知れません。のんきに車のラジオを聴きながら煙草を吸ってはいられないのです。

「人の子の親」の子供への接し方がずれてしまっているといっても過言ではないでしょう。そういう例をよく見聞きするのです。私の家の前にちょっとした駐車場があって、毎年そこに車を止めて親子連れがよく蛍をとりに来るのですが、今年は、蛍が少なくてがっかりしていた私をさらにがっかりさせる出来事がありました。いつものように子供が歓声を上げながら蛍を追っていたのですが、そのはしゃぎ声が急に鳴き声になり、すぐに母親らしい女性の声が子供を叱りつけました。たぶん子供が転んで泣いたのだと思うのですが、叱られていっそう大きな声で泣き出してしまいました。今度は父親らしい声がそんなに泣くのなら蛍とりはやめだと言って、泣きながらまだ蛍をとりたいという子供をまた叱りつけて連れて帰ってしまいました。そんなことくらいで何を大げさにと思われるかも知れませんが、そんなことくらいで子供というのは歪んでしまうのではないでしょうか。車のドアが閉まる音がする前に、子供が悪態をついている様子がうかがえたのです。悪態をつく子供を叱る親の声は聞こえなかったのです。親は子供の身の安全も考えなければならないでしょう。同時に心の健全も考えなければならないはずです。


翌朝駐車場に虫かごがのこっていました。その虫かごには何か棒のようなもので突かれたあとがあり、中で二匹の蛍が潰され、残る二匹も死んでいました。子供が親にではなく蛍に悪態をつき、死なせてしまったのだとしか思えない状態でした。その子供が死なせてしまったのは蛍だけではないのではないでしょうか。命を大切にする気持ちの蛍四匹分を死なせてしまったのではないでしょうか。

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