随筆かも知れない

意味の奥底

3月6日

「あんたの身体より、仕事にいけるかどうかが心配やわ」と母が言ったことがあります。その時の私は風邪をひいて39度近い熱があったのです。

新聞記事などで「キレる」という聞き慣れない言葉を見て思ったのですが、その時の私のことだったのでしょう、「キレた」というのは。意地でも、倒れてでも仕事はしてやると思ったのでした。

よくもまあそんなことを思ったものです。熱があったからそんなことを思ったのではないのでしょう。普段から思い違いをしているからそんなことが思えるのでしょう。「仕事」はさせていただくもので、さらに言えばさせていただくときすでに「仕事」ではないのです。

政治的なことにはあまり興味がないのですが、ある首相が「不退転」という言葉を使われたので、気になったことがあります。「不退転の決意で行政改革を実行させていただく所存です。」これは多くの自己矛盾を含む表現です。総合して一つの意味を表すことができない表現です。ですから、ということはないのでしょうが、行政改革は実行されませんでした。

また、「させていただく」という表現が「どういう意味なのか」が一部の国会議員さん達の中で話題になったこともありました。為政者が使うべき言葉ではないのはたしかです。政治の世界に宗教を持ち込んではいけないなどということではありません。行為者が「他者」を含まない場合には使えない言葉のはずだからです。

ある方がご法話のなかで「人の為人の為と言うが、人の為と漢字で書いてみなさい、偽りだ。だから人の為といっても結局は我が為にしているのだ」と仰有ったのを覚えています。それはなるほど頷けることで、我が身に照らし合わせるとお恥ずかしい限りの自分であることがよく分かるお言葉でした。

さらに考えたのですが、実は人の為すことが偽りなのではないでしょうか。漢字の成り立ちなど私は知らないのですが、人が為すことを指して偽りというのではないのでしょうか。

偽り事しか為しえないのが私であり、人間なのであるということであるならば、「させていただく」ところにしか偽りでないものはあり得えないということになります。

すべて虚偽のなかにただ一つ真実があるとすれば、それこそは「他力」のおはたらきに他ならない。「為す」のでなく、「させていただく」のであるのでしょう。

母の言葉は、さらに奥の深い言葉でした。それに気がついたのは私が何とか無事に「仕事」をさせていただけて、家に帰ってきて、また布団に入って暫くしてからでした。

『熱のある私によく「仕事」ができたな』とぼんやりと考えていて、ハッとその時に気づかせていただいたのでした。


私が「極悪人」であるのは、時として我が悪業を偽称しさえする、こともあろうか「おはたらき」だと。そしてそれをもお見通しのうえでの「本願他力」であります。「他力」という言葉ほど一般的な意味と本当の意味とがかけ離れてしまった言葉もめずらしいのですが、それほどになかなか真実を真実といただけない私たちなのでしょう。

最新の掲載へ  101回からの掲載へ

以前の掲載一覧
100 自燈明
99 (無題)
98 (無題)
97 不信にあらずや
96 大地
95 教訓
94 名宛人不明
93 具体
92 益・無益
91 大自覚
90 出来た人
89 お講の風景
88 いわずもがな
87 放言-3
86 放言-2
85 放言
84 宿業
83 不可思議
82 不思議
81 自我と我執
80 慚愧
79 報謝
78 感想文
77 余計なお世話
76 ある確認-3
75 ある確認-2
74 ある確認-1
73 (無題)
72 今にある歴史
71 とわれるもの(2)
70 問われるもの
69 証道の歴史
68 そのうえの念仏
67 中中おろかなり
66 大悲無蓋
65 無生の生、往生
64 「おめでとう」
63 称名
62 救い
61 いのちである言葉
60 信楽受持甚以難
59 家族の真宗
58 詮ずるに愚痴
57 無碍光如来
56 光明無量
55 非行非善
54 仏法聞き難し
53 (無題)
52 さるべき縁
51 いそぎ仏になりて
50 遺伝
49 無生
48 構造
47 迷い
46 (転載)
45 奇妙な反省文
44 現在
43 念仏、お念仏
42 (無題)
41 お聞かせ
40 謝すべし
39 相続
38 自縄
37 我が身
36 立所
35 心の向かうところ
34 不可説
33 個性
32 癒し
31 (無題)
30 ただ称える
29 輝く
28 有量
27 光と闇
26 深い闇
25 ただ一つ
24 離れる
23 意味の奥底
22 梅の花が
21 念ずる方向
20 穴の中
19 罰があたった
18 掌を合わす
17 悪人たる所以
16 極点に立つべし
15 大海
14 奇妙な酔っぱらい
13 ばあちゃんの避難訓練
12 無智
11 芸術の秋
10 仮想現実
日本教
ベクトルでもない
転んだら立ち上がれば...
京都の五山の送り火は
今回は関西弁で


「じねん」と読むらしいです
HEAVYってどういうこと?

かも知れない検索
(別窓で開きます)