随筆かも知れない

自我と我執

平成12年12月11日

こんなふうに図式的に考えるのは我ながら正しい方法だとは思わないのですが、ひとつの便宜として「私」と他者との関係のなかにあるのが「自我」、自分自身との関係(「私」とわたし。主観と客観)のなかにあるのが「我執」だと言えなくもないように感じます。

「自我」と「我執」とは言葉の違いであって、ことさら正しいとも思えない方法で区別するのはどうか。現にほぼ同じ意味で使っているのだからどちらでもいいのではないかという考えもあるかも知れません。けれども、「自我」と「我執」とを区別しないと困ったことになるのではないかと思うのです。

例えば、人と人が言い争って互いに譲らない。それを端で見ている人が「『我』の強い人たちだ」と言います。言い争って喧嘩別れした人が、さて冷静になって少しばかり省みて「どう考えても俺の言っていることがやはり正しい」と言います。それを端で見ている人が「『我』の強い人だ」と言います。さてこの場合、前者と後者では『我』の意味は同じなのでしょうか、違うのでしょうか。違うとしたら、どう違うのでしょう。

自我がぶつかれば人は争います。争いの種は何であれ、争うのは自我です。しかしながら人は争ってばかりいるのではなく、和解もすれば愛し合いもします。ところで、和解し、愛し合うのもやはり自我ではないでしょうか。つまり、人と人が関わり合い、反目し争いもすれば和解し愛し合いもする人間の世界(外的世界)は総じて自我の世界であって、「倫理」や「道徳」が重んじられるべきところではないでしょうか。

人は自分と向き合うということをします。事あれば大喜びし、事あれば悲嘆にくれる自分というものを見つめます。そのままでよいのだ、いや、これではいけないと色々に感じ、色々に思いを抱きます。いかに感じ、いかに思おうとも、しかし、人が自分と向き合う世界(内的世界)は我執の世界ではないでしょうか、なぜなら自分と向き合うのが自分であるからです。

私は罪の深い者だ思うところにも、実は自分を断罪しながらペロリと舌を出さないまでもいかにも暢気すぎる「私」がいます。「倫理」や「道徳」は、ここでは働きがありません。では何の働きがあるかといえば、ここにこそ「仏法」の働きがある。我執がなければ我執を離れる働きは用のないものです。自我を武器に言い争いをしている相手からは自分の足で私の方から離れられるのですが、自分というものからも自分と向き合う自分というものからも私たちは離れる術を持ち得ません。だからこそ、「仏のかたより」ということがここにあります。お念仏によって我執を離れさせていただくということがあるのはここです。我執の世界、しかしながら同時にそこは仏法の世界、お念仏の世界です。

「自我」と「我執」ということが区別を失うと、例えば仏法が道徳になりはしないでしょうか。人と人とが互いに尊重しあうことが仏法だということになると、仏法は仏法でなくなりはしないでしょうか。


これはまた別のことではありますが、普通は三つ(衆生縁・法縁・無縁、大・中・小)に分けられていた「慈悲」ということをご開山がどういう含みをもって二つに分けられたのかは分かりません。けれども歎異抄第四章は内容からすれば行者のはからう慈悲と仏の大悲とがあるということでしょう。人道の慈悲と仏の慈悲(仏道で言うところの慈悲)の違いがあると言ってもいいのではないでしょうか、大変示唆に富むことだと思います。

最新の掲載へ  101回からの掲載へ

以前の掲載一覧
100 自燈明
99 (無題)
98 (無題)
97 不信にあらずや
96 大地
95 教訓
94 名宛人不明
93 具体
92 益・無益
91 大自覚
90 出来た人
89 お講の風景
88 いわずもがな
87 放言-3
86 放言-2
85 放言
84 宿業
83 不可思議
82 不思議
81 自我と我執
80 慚愧
79 報謝
78 感想文
77 余計なお世話
76 ある確認-3
75 ある確認-2
74 ある確認-1
73 (無題)
72 今にある歴史
71 とわれるもの(2)
70 問われるもの
69 証道の歴史
68 そのうえの念仏
67 中中おろかなり
66 大悲無蓋
65 無生の生、往生
64 「おめでとう」
63 称名
62 救い
61 いのちである言葉
60 信楽受持甚以難
59 家族の真宗
58 詮ずるに愚痴
57 無碍光如来
56 光明無量
55 非行非善
54 仏法聞き難し
53 (無題)
52 さるべき縁
51 いそぎ仏になりて
50 遺伝
49 無生
48 構造
47 迷い
46 (転載)
45 奇妙な反省文
44 現在
43 念仏、お念仏
42 (無題)
41 お聞かせ
40 謝すべし
39 相続
38 自縄
37 我が身
36 立所
35 心の向かうところ
34 不可説
33 個性
32 癒し
31 (無題)
30 ただ称える
29 輝く
28 有量
27 光と闇
26 深い闇
25 ただ一つ
24 離れる
23 意味の奥底
22 梅の花が
21 念ずる方向
20 穴の中
19 罰があたった
18 掌を合わす
17 悪人たる所以
16 極点に立つべし
15 大海
14 奇妙な酔っぱらい
13 ばあちゃんの避難訓練
12 無智
11 芸術の秋
10 仮想現実
日本教
ベクトルでもない
転んだら立ち上がれば...
京都の五山の送り火は
今回は関西弁で


「じねん」と読むらしいです
HEAVYってどういうこと?

かも知れない検索
(別窓で開きます)